紀元前1世紀半ばのローマ内戦期、ユリウス・カエサル率いる軍団によって発行されたデナリウス銀貨。カエサルがルビコン川を渡った紀元前49年1月以降、軍団を構成する兵士達に支払う給与として造られました。ポンペイウス派との内戦が続く中、軍団はコインの極印と打刻道具、銀とともに移動し、駐屯地の陣中で製造しました。
こうして製造されたデナリウス銀貨はおよそ700万~800万枚に及ぶと推定され、出土したコインのデータから表面の極印だけでも750種類以上が使用されたとみられています。イタリア半島の各地で出土したカエサルの象コインは、ルネサンス期に再注目され、最もよく知られたローマコインとして人文学者や貴族のキャビネットに収められました。
このデナリウス銀貨は全体に経年変化のトーン(酸化変色)がみられ、長期間にわたって大切に保管されていたことが分かります。細部まで意匠が残され、小さいながらも立体的なコインです。歴史的な重要性、時を経た保存状態などから、お奨めできる一枚です。
共和政時代のデナリウス銀貨は帝政時代と比べて重く、銀品位も良かったため、多くは資産価値が認められ貯蔵されていました。ローマが対外的な領土拡張策を推進していた時代、戦地へ赴く兵士が出征前に資産を隠す場合があったと考えられています。しかし埋蔵した本人が帰還せず戦地で没し、他者にも資産の存在が知られなかったため、そのまま退蔵されたコインが後世にまとまって出土するケースもあります。