アス銅貨は古代ローマにおける貨幣の最小単位であり、ローマ市民をはじめ多くの庶民の手に渡ったコインでした。紀元前3世紀までは鋳造の大型銅貨でしたが、経済の拡大と共に金貨、銀貨が発行されると軽量化されました。
帝政時代のローマにおいて、1アスは現在の1ユーロや1ドル、1ポンド程度の価値だったとされ、日本の100円硬貨のように人々の手に渡りやすかったコインと考えられています。日常生活における買物や街中での食事の支払い、浴場や闘技場の入場料としても頻繁に使用された、ローマ人の生活にとって欠かせないコインです。そのため発行数や種類は多かったとみられますが、使用頻度の高さや銅という素材の問題、当時の購買力価値の低さ(1デナリウス=16アス)から貯蔵には向かず、良好な状態で現存しているものは希少です。
ローマ時代のデリカトゥス(想像図) デリカトゥスは食料や日用品を提供する小規模商店。軽食も提供し、ローマ市民の日常生活にとって大変便利な存在でした。こうした店舗での支払いにはアス銅貨が主に使用されていました。
デナリウス銀貨に比べて市民の手に渡りやすいアス銅貨は、皇帝や国家の宣伝媒体としても広く活用されました。
このアス銅貨の裏面には「球体」と「船の舵」が表現されています。球体は世界=ローマ帝国を示し、船の舵は運命の女神フォルトゥーナの象徴です。皇帝ティベリウスがローマ帝国の舵を握り、運命の流れを司っていることを表現しています。
この意匠はおよそ60年後のネルヴァ帝治世下、神格化された初代皇帝アウグストゥスを顕彰する為に発行されたアス銅貨にも採用されています。