19世紀初頭、ナポレオン時代のイタリアで発行された3グラナ銅貨。この銅貨はナポレオン・ボナパルトによって征服された、南イタリアのナポリ王国で発行・使用されました。
表面には豊かな頭髪が特徴的な
ジョアシャン・ミュラの肖像が打ち出されています。ジョアシャン・ミュラはナポレオンの部下であり、猛将として活躍した将軍です。彼はナポレオンの妹カロリーヌと結婚し、ナポレオン一族になりました。ミュラはイタリア半島遠征で活躍し、ナポレオンがフランス皇帝になった後はドイツのベルク大公、後はイタリアのナポリ王に封ぜられました。
ジョアシャン・ミュラ (1767年~1815年) ナポリ王となった後はイタリア名「ジョアッキーノ1世」を名乗り、自らの姿と名を刻んだフランス風のコインをナポリ王国内で発行しています。
ナポレオンが失脚するとミュラは一旦離反しますが、エルバ島から脱出したナポレオンが再決起すると再び付き従いました。しかし戦略面での失敗が相次ぎ、最期は連合国軍に捕らわれて銃殺刑に処されました。ナポレオン一族の中では唯一処刑された人物です。
そのような歴史的背景から、ミュラを表現したコインが現存しているのは珍しいと云えます。イタリアの解放者として入城したナポレオン軍も、失脚後は旧体制のブルボン系の王家が復帰したことで敵視されました。彼らはミュラやナポレオン系の王朝を正統とは認めず、簒奪の違法な政権と見做したため、その時代に発行されたコインも通用停止になったとみられています。