1世紀半ば、ローマ帝国支配下の古代エジプトで発行されたテトラドラクマ銀貨。テトラドラクマは4ドラクマを表し、エジプト属州内のみでの流通を想定したコインでした。中型のコインですが銀はほとんど含まれておらず、当時はローマのデナリウス銀貨一枚が、このテトラドラクマ銀貨一枚に相当したと考えられています。
表面には当時の
ローマ皇帝ネロ(在位:AD54年~AD68年)の横顔肖像、裏面には
古代エジプトの神セラピスが表現されています。セラピスは古代エジプトの神々を融合した存在とされ、ギリシャ・ローマ風の姿で表された神です。
ギリシャ系のプトレマイオス王朝を経てローマ帝国の支配下に入ったエジプトでは、急速に社会・文化のローマ化が進んでいました。ミイラの文化など、信仰面では独自性を保っていましたが、穀物を生産する豊かな属州の一つとして市民生活の文化水準は高く、ローマの伝統や文化も上手く取り入れられていました。こうした異文化の融合は、当時のエジプト市民の間で使われていたコインのデザインにも表れています。
同時代のエジプトで造られた「ミイラ肖像画」。包帯で巻いたミイラの顔部分に置かれました。この頃には伝統的なマスクではなく、故人の生前の容姿を活き活きと描いたものが流行していました。ローマ帝国時代のエジプト人の服装や髪型、装飾、化粧などを今に伝えています。この頃から既に、人々の容姿もローマ風になっていたことが分かります。