2世紀、アントニヌス朝時代のローマ帝国で発行されたデナリウス銀貨。この時代のローマ帝国は最大規模の版図を誇りながら、国内外は比較的平和だったため、安定した繁栄を謳歌することができました。このコインは安定の時代、
アントニヌス・ピウス帝の治世下に発行されました。
表面には
若きマルクス・アウレリウス・アントニヌスの横顔肖像が打ち出されています。『自省録』の著作で知られ、後世では「哲人皇帝」の異名で知られた賢帝の、青年時代に発行されたコインです。
裏面に表現された水差しや笏などの道具類は、当時の祭儀で用いられた神器群です。これは当時のマルクス・アウレリウスが有していた「神祇官」の地位と権威を象徴しています。
ハドリアヌス帝から将来を期待されたマルクス・アウレリウスは、後継者アントニヌス・ピウスの養子となり、若くして「CAESAR(副帝)」の地位を与えられます。その後は異例の若さで執政官や神祇官などの役職を経験し、義父であるアントニヌス・ピウス帝の補佐をしながら、将来の皇帝としての準備を整えたのです。
当時製作された若きマルクス・アウレリウスの彫像と、このコインに表現された肖像を比較すると、その容姿や特徴が大変良く再現されていることが分かります。大きな瞳と高い鼻筋、豊かな巻毛など細かく表現されています。
アントニヌス・ピウス帝の治世下に発行されたこのコインは、後継者である将来の皇帝の存在を帝国の人々に知らしめる目的がありました。コインにはストア派のギリシャ哲学に傾倒した哲学青年の、凛凛しく聡明な姿が表現されています。容姿端麗で優秀な後継者の存在は、規模が拡大したローマ帝国の安定にとって心強いものだったと思われます。
哲人皇帝がまだ哲学青年だった頃の姿を刻んだコイン。古代ローマ史の貴重な実物史料です。