コイン周囲の縁部分に付けられた無数の切り込みは「Serratus(セラトゥス)」と呼ばれ、ラテン語で「ギザ」を意味します。この切り込みはコインの変造及び偽造を防止するために付けられたと考えられています。
表面には
サターン神の横顔像が打ち出され、右下には発行都市ローマを示す「
ROMA」銘が刻まれています。銘文の上に配されているノコギリのようなものは鎌であり、農耕神としての性格を示しています。
サートゥルヌス (サターン)のレリーフ 古代ローマにおいてサターンは「サートゥルヌス」の名で知られた農耕の神であり、ギリシャ神話のクロノスに相当する老神と捉えられていました。毎年年末にはサターン神を奉る収穫祭が盛大に催され、貴族から市民、奴隷に至るまで無礼講の騒ぎが繰り広げられたと云われます。また土星を象徴する神とされ、ラテン語の「Saturnus(サートゥルヌス)」、英名の「Saturn(サターン)」はそのまま土星を意味し、英語で土曜日を示す「Saturday」はサターン神の名前に由来します。一方で「農耕=季節、年月などの時間」を象徴するものとされ、鎌によって時を刈り取る神とも捉えられました。
裏面にはビガ(二頭立て馬戦車)に乗る美女神
ヴィーナスが表現されています。その上からは、ヴィーナス女神の息子であり、従者とされた
キューピッドが飛来しています。キューピッドの両手には花輪が持たれ、母親であるヴィーナス女神の頭上に掲げられています。構図の下部には、BC106年当時の貨幣発行責任者メンミウス・ガレリアの名を示す「L MEMMI GAL」銘が刻まれています。
愛と希望に打ちのめされるサターン (シモン・ヴーエ作)
サターンは時を司る神としてのイメージから「残酷な時の流れ」「時間の無常さ」を象徴する存在として捉えられました。ルネサンス以降の寓意画では「若さ」に対して「老い」を具現化した存在して表現されました。この絵画では鎌を持ったサターン(=時間、老い)が、錨を持った希望の女神と愛の女神たちによって打ちのめされる場面が描かれています。愛の女神はヴィーナスであり、息子キューピッドも手助けしています。