紀元前2世紀末、共和政時代の古代ローマで発行されたデナリウス銀貨。
表面には
ジュノー(ユノー)女神の横顔像が打ち出されています。ジュノーはギリシャ神話における「ヘラ」に相当する女王神であり、大神ジュピター(ユーピテル)の正妻とされました。山羊の毛皮を被った姿は「ユノー・ソスピタ(救済のジュノー)」と呼ばれ、古代ローマでは女性や子どもたちを守護、救済する女神の姿とされていました。紀元前197年にユノー・ソスピタに捧げる神殿の建立が誓願され、3年後の紀元前194年にローマ市内のフォルム・ホリトリウムに建立されました。
左側にはジュノー女神を表す添え名「
I・S・M・R (=Ivno Sospita Mater Regina, ジュノー 救済者 母なる女王)」銘が配されています。ユノー・ソスピタは豊穣と国家の救済・守護を司る女神ともされ、毎年2月1日が祝祭日に設定されていました。
ジュノー女神像 ヴァチカン美術館所蔵。コインと同じく山羊の毛皮を纏った姿。
ジュノーは最高位の女神であり、多くの女神達を従える姿で表現されてます。時には王笏を手にし、自らの聖鳥である「孔雀」を引き連れた堂々たる姿で表現されることもあります。こうした力強いジュノーの姿と権威は、社会的地位の低かった現実の古代ローマ社会の女性達にとって心強い味方でもありました。6月はジュノー女神の月とされ、英名の「June」は女神の名前に由来しています。この月に結婚式を挙げた花嫁はジュノー女神の加護を受けられるとして、現在にも続く「ジューンブライド(六月の花嫁)」伝説が生まれたのです。
天上のジュノー女神 豪華な御車に乗り、二羽の孔雀に引かせた姿。先導役を務めるのは月の女神ルナ。