19世紀～20世紀初頭のイギリスではコインの図柄をエナメルによって彩色し、ペンダントやブローチにする工芸品が流行しました。こうしたコインジュエリーは「ヴィクトリアン」と通称され、熟練の職人による繊細な作業によって、多種多様な作品が生み出されていました。現在では再現困難な、アンティークコインジュエリーです。

　使用しているコインは1818年にイギリスで発行された1クラウン銀貨です。ジョージ3世肖像の左右下の痕跡から、ブローチとして使用されていたものと推察されます。

　名匠ピストルッチの代表作「聖ジョージの竜退治」図にエナメル彩色を施し、血の通った戦士像として再表現されています。聖ジョージ(ゲオルギオス)の肌色に朱色のマント、白馬に青緑色の竜(ドラゴン)まで、明瞭勝つ繊細に再現されています。周囲部のガーターベルトは紺色に彩られ、文字銘「HONI SOIT QUI MAL Y PENSE (=邪心あるものに災いあれ)」は白抜きにして際立つように配慮されています。

　100年前の英国ジュエリー職人による一点もの作品。芸術品といってよいシルバーアンティークです。


※裏面にブローチ金具留めの跡あり