6世紀のビザンチン帝国(東ローマ帝国)で造られたトレミシス金貨。トレミシスは三分の一を意味し、ソリダス金貨の1/3の価値に相当する小さな金貨です。ビザンチン帝国中興の祖であり、帝国の最盛期を築いた
ユスティニアヌス1世(在位:527年~565年)の治世に発行されました。
ユスティニアヌスはもともと農民出身であり、叔父のユスティヌスが近衛兵士から皇帝に上り詰めた後、その後継者として即位しました。ローマ帝国の再興を目指したユスティニアヌスは、北アフリカのヴァンダル王国やイタリア半島の東ゴート王国を滅ぼし、さらに西ゴート王国からはイベリア半島の一部を奪い取ることで帝国の領土を地中海全域に拡大させました。また、中国から伝播した養蚕業を奨励し、絹織物などシルクの生産によって富を蓄えました。そして帝都コンスタンティノポリス(現・イスタンブール)のハギア・ソフィア大聖堂の再建、『ローマ法大全』の編集などの功績から、後世には「大帝」と呼ばれています。
その妻の
皇后テオドラはサーカスの踊り子出身であり、美しくも勝気で野心的な性格だったと云われています。当時は身分違いの結婚ではありましたが、もともと学者肌だった夫を助け、国政にも影響を及ぼした女傑として有名です。
ユスティニアヌス大帝 & 皇后テオドラ (イタリア北部、ラヴェンナのサン=ヴィターレ聖堂のモザイク壁画)
ユスティニアヌス帝はコインに十字架をかざす肖像を刻ませた、最初期の皇帝の一人であるとされます。肖像の周囲部には「
D N IVSTINIANVS P P AVG (=我らの主 ユスティニアヌス 国父たる皇帝)」銘が刻まれています。
ユスティニアヌス1世の時代は拡大した領土と産業の振興に伴い、帝都コンスタンティノポリスには多くの富と人が集まり大いに繁栄しました。コンスタンティノポリスを中心とする広大な経済圏では高品位のソリダス金貨が共通通貨でした。広い範囲で流通したソリダス金貨は、ビザンチン帝国と中世ヨーロッパの貨幣経済と商業を支える重要な役割を果たしたのです。