ゴルディアヌス3世(在位:AD238-AD244)はわずか13歳でローマ皇帝に即位しました。祖父はアフリカ属州の総督(*現在のチュニジア)であったゴルディアヌス1世であり、アフリカ属州において皇帝即位を宣言しましたが、わずか36日で政敵に殺害されました。短命に終わった祖父の治世とは異なり、ゴルディアヌス3世の治世は6年に亘りました。
244年、ペルシア軍との戦いの最中19歳の若さで亡くなったゴルディアヌス3世は多くのローマ市民から惜しまれ、後に神格化されました。彼の祖父が着工し、ゴルディアヌス3世の治世に完成したエル・ジェムの円形闘技場は良好な保存状態を保ち、ローマ帝国の栄華を現代に伝えています。エル・ジェム闘技場は世界遺産に登録され、チュニジアの主要観光名跡の一つになっています。
コインの裏面にはプロヴィデンティア女神が表現されています。プロヴィデンティアは先見・予知を具現化した女神像であり、先見の明がローマ皇帝の欠くべからざる資質であることを示しています。
アントニニアヌス銀貨はカラカラ帝による通貨改革によって初めて発行され、名目上はデナリウス銀貨2枚分の価値があるとされていました。アントニニアヌスとは後世の貨幣学上の通称であり、カラカラ帝の本名「アントニヌス」から名付けられました。そのため、この当時何と呼ばれていたかは分かっていません。
デナリウス銀貨より重く、直径が明らかに大きくなっている点、また皇帝肖像が月桂冠ではなく、太陽を表現した「光の冠」と呼ばれる独特な冠を戴いている点が特徴です。
アントニニアヌスをはじめローマ時代の銀貨は壺などに入れられ、まとまって出土するケースが多くあります。当時の人々が蓄財用に埋蔵していたものとみられ、その後回収することができなかったものが後世に発見されます。出土したコインは泥土に汚れ酸化も激しいため、特殊な洗浄薬液に浸けて意匠を明らかにし、上のイメージ写真のように乾かして判別します。