ローマ帝国属州時代の古代エジプトで発行されたドラクマ銅貨。当時、ギリシャ幣制を使用していたエジプトの一般民衆向けに造られたコインです。この大型のドラクマ貨はエジプト属州内でのみ流通していたものですが、ローマ本国のセステルティウス貨とほぼ等しい価値であったとみられています。
ローマ帝国時代、エジプトは「ローマの穀物庫」とも呼ばれ、ワイン用ブドウの栽培が中心となったイタリア半島に代わってローマの食糧供給を担っていました。皇帝直属の属州として重要視され、特に
ハドリアヌス帝(在位:AD117年~AD138年)は個人的にエジプトでの滞在を気に入り、属州都アレクサンドリアは商業や文化が発展したことで繁栄を謳歌しました。
コインの裏面には、岩場に座る
ナイル川の神が表現されています。リラックスした様子のナイル神は、左手でナイル川に繁る葦を手にし、右手でコルヌ・コピア(豊穣の角)を携えています。傍らには
ナイルワニ(クロコダイル)を従えています。
尚、ナイル神の上下に確認できる「Iς」銘と「L TPICKAI」銘はこのコインが発行された年、即ちハドリアヌス帝の「治世13年目(=AD128年~AD129年)」を示しています。
神殿の壁画に刻まれたナイル川の神「ハピ」 左右でナイル川の上流(上エジプト)と下流(下エジプト)を表す このナイル神像は、古代エジプト神話のナイル川の神
「ハピ」が基になっているとみられます。ハピ神もコイン上に刻まれたナイル神と同じく、乳房が垂れ腹が出た肥満の男性像として表現されています。また頭部には鉢巻と蓮の花が巻かれており、これもハピ神と同じ特徴です。この神像はローマ風にアレンジされた古代エジプトの神の姿であり、ローマとエジプトの文化融合を示すものです。