この金貨は独特な製造方法から御椀状になっており、通称「カップコイン」とも呼ばれています。表面のキリスト像が凸になり、裏面の皇帝像が凹になっています。また色の性質上、金と銀の配合品位はほぼ同じとみられています。
表面に表現されたイエス・キリストの坐像は、コンスタンティノポリス(現在のイスタンブール)に健立されたアヤソフィア大聖堂内にあるモザイクイコンと同じ構図であり、伝統的なビザンチン様式を形容していることが分かります。
キリストの頭部には十字架を模した頭光が配され、左右にはギリシャ系の正教会でイエス・キリストの名を示す略銘「IC XC」が刻まれています。左腕で聖典を抱え、右手を天に掲げています。三本の指を重ねた手の形は、三位一体の神を象徴し、二本の指を曲げて掌につけて、キリストの神性と人性を表すとされています。
イエス・キリストのモザイクイコン (アヤソフィア大聖堂、11世紀) 裏面に表現された皇帝ミカエル7世ドゥーカスの像は特徴的な冠を戴き、十字架の王笏と宝珠を手にしています。
この正面像の構図はイエス・キリストや聖母マリアなどのイコンに代表されるように、キリスト教の神聖性を象徴するものです。ここではビザンチン皇帝が東方正教会の長であり、守護者であることを示しています。