フェニキア地方のアラドスは沖合い2.5kmに浮かぶ小島(*現在のシリア, アルワード島)に建設された植民都市であり、このコインが発行された当時はアケメネス朝ペルシアの宗主下にありました。

　表面には月桂冠を戴く大神バールの横顔像が打ち出されています。バール神は天候を司る雷神とされ、ギリシャ神話のゼウス神に相当する大神としてフェニキアをはじめ、地中海東方地域で広く信奉されました。

　裏面には、多くの漕ぎ手を乗せたガレー船が表現されています。上下には波間を示す線と、製造年を示すフェニキア文字銘が配されています。

　　　 　

　良質なレバノン杉を用いて製造された大型のガレー船は大量の商品を地中海各地へ運び、フェニキア商人の繁栄の礎となりました。また造船技術の高さや良港の存在は周辺大国によって重要視され、エジプトやペルシア、マケドニア、ローマの支配下に置かれた時代も各都市は高度な自治権を有しました。各都市では独自のコインが発行され、経済的・政治的な独立自治の証として通用し続けました。