アントニヌス朝時代の古代ローマ帝国で発行されたデナリウス銀貨。マルクス・アウレリウス帝とルキウス・ウェルス帝の共同統治期にローマ市内で造られました。
ルキラはルキウス・ウェルス帝の妃であり、マルクス・アウレリウス帝の長女でした。また暴君として知られるコンモドゥスの姉にあたります。
父帝マルクス・アウレリウスは義理の弟を共同統治帝に任じた後、その関係性をより強固なものにするため、15歳のルキラを義弟に嫁がせました。結婚から5年後にルキウスが亡くなると、側近だったティベリウス・クラウディウス・ポンペイアヌスと再婚、AD180年に父帝が亡くなってからは皇帝コンモドゥスの姉として影響力を保ちました。しかしAD182年、夫と企てたコンモドゥス暗殺計画が露呈し、人間不信に陥った弟によってローマから追放、流刑先のカプリ島で生涯を終えました。一説には処刑されたとも云われています。
高貴な生まれと悲劇的な最期から、ルキラは後世の創作物語の中ではヒロインとして描かれることが多く、映画『ローマ帝国の滅亡』(1964)や『グラディエーター』(2000)では物語の重要な役どころとして登場します。
ウェスタは竃の守護女神から転じて家庭の守護神となり、古くからローマ人に信仰されてきた女神です。そして国家を大きな家族と捉えたローマ人によって「ローマ国家の守護女神」と認識され、ローマの中心部 フォルム・ロマヌムにはウェスタの神殿が建立されていました。6月9日は「ウェスタリア」と呼ばれる祝祭が催行され、竈に関連するパン屋や粉屋は祝休日となりました。
ウェスタの巫女たち ウェスタ神殿に据えられた「不滅の聖火」は、貞潔を重んじる処女の巫女たちによって大切に護られていました。
毎年3月1日に二本の枝を擦り合わせて火を起こし、新たな聖火を女神に捧げました。神殿は大神祇官=皇帝が管轄する重要な聖域とされ、巫女たちには様々な社会的特権と役割が与えられました。一方で神殿域内に居住し結婚が禁じられるなど、一生涯を神殿の管理に捧げるよう求めらました。生涯を通して男性との接触はほぼ禁じられ、不貞を犯した巫女は生き埋めの刑に処されたと云われています。
コインに表現されたウェスタ女神はヴェールを被り、貞潔さと厳粛さを象徴しています。右手で柄杓、左手でパラディウム(*ウェスタ神殿の聖所に祀られていたアテナ女神像, トロイア戦争時にアエネアスが持ち出し、ローマにもたらされたと伝わる)を携えており、左下には聖火が灯された祭壇が配されています。