8世紀初頭のイスラーム帝国で発行されたディルハム銀貨は、ギリシャの「ドラクマ」に由来する単位として中東地域で広く流通し、イスラーム帝国の勢力拡大と共に流通範囲を広げました。今尚、「ディルハム」はアラブ首長国連邦やモロッコなどの通貨単位として残されています。
このディルハム銀貨は
ウマイヤ朝第10代カリフ ヒシャーム(在位:724年~743年)の治世に造られました。
ウマイヤ朝はイスラーム教の最高指導者カリフの地位を代々継承した、ウマイヤ家による王朝です。首都はシリアのダマスカスに置かれ、西はモロッコ、イベリア半島から東はアフガニスタン、パキスタンにまで至る広大な地域を支配しました。
ウマイヤモスク 画像は1890年にドイツ人画家グスタフ・バウエルンファイントによって描かれた作品
ウマイヤ朝の功績は、広大な帝国内で通用する統一通貨
「ディルハム銀貨」と
「ディナール金貨」の発行を開始したことです。その様式は偶像崇拝を禁ずるイスラーム教の考えに基づいたものであり、表と裏にはイスラーム教の聖典『コーラン(クルアーン)』の一節が刻まれています。
表面には、イスラーム教における信仰を告白する文言
「アラーの他に神はなし」と刻まれ、周囲部には「尊きアラーの御名に於いて121年にワーシトで造られたディルハム」を意味するアラビア文字銘が刻まれています。「121年」はイスラーム教のヒジュラ暦であり、西暦では738年~739年にあたります。
裏面にも聖典コーランの一節
「ムハンマドはアラーの使徒である。彼は導きと真理をもって使徒を遣わした。多神教徒が好まざるとも、全ての教えの上に君臨する。」と記されています。