ルーム=セルジューク朝はセルジューク朝から分派したトルコ系イスラーム王朝。ビザンチン帝国(東ローマ)を圧迫して小アジア一帯、現在のトルコを拠点とした。「ルーム」とは「ローマ」が訛ったものであり、東ローマ帝国領だった小アジアを拠点としたことから呼称される。
通常、イスラーム教では偶像崇拝を禁じているため、初期王朝から一貫してコインには聖典クルアーン(コーラン)の一節などアラビア文字銘文のみが刻まれていた。しかし中央アジアの騎馬遊牧民を起源とするトルコ系のセルジュークでは独自のデザインがモスクなどに施された。ルーム=セルジューク朝が発行したこのコインは顔がある太陽とライオンという組み合わせの宗教的な偶像デザインが刻まれており、中世イスラームでは極めて例外的な存在である。
尚このコインはマルコ・ポーロの『東方見聞録』第一巻 1875年英訳版において、セルジューク朝で使用されているコインとして図版で紹介された。
シェルドル・マドラサの外壁装飾※中央アジア、ウズベキスタンの古都サマルカンドに残る「シェルドル・マドラサ」は1636年に建設されたイスラームの神学校であり、世界遺産に登録されている。巨大な建物の入り口上部には、このコインと類似のモティーフが色鮮やかに施されている。顔のある太陽は王、ライオンはここで学ぶ学徒、追い求められる白い鹿は学識を象徴しているとされる。しかしイスラーム教の偶像崇拝忌避に反するこのモティーフから、このマドラサを建てた建築家は責任をとって自殺したという伝説が残る。