紀元前5世紀のアケメネス朝ペルシア帝国で発行されたシグロス銀貨。このコインはアケメネス朝が支配した小アジア西部、リディア地方の中心都市サルデスで造られました。
アケメネス朝はペルシアを中心とし、東はインド~西はエジプト、小アジアにまで至る広大なオリエント世界を統治した大帝国です。紀元前4世紀半ばにアレキサンダー大王(マケドニア王 アレクサンドロス3世)によって滅ぼされるまで東方世界で強大な力を持ち、ギリシャ世界にとって大きな脅威であり続けました。
史上初めて本格的なコインを発明し、実用化したリディア王国を滅ぼしたアケメネス朝は、後に造幣所と技術者、金銀の資源を活用して、当地でコインの発行を継続させました。そのデザインはペルシャ王の姿を表現した、全く独自のものでした。世界で初めて貨幣を発明したリディアのコインには、ライオンや雄牛などの動物が刻まれていましたが、アケメネス朝のコインは王の姿を表現させたことで、人類史上初めて「人物像」を貨幣に刻んだ国といえます。つまり
このタイプのコインは、歴史上最初の「人間の姿を表現したコイン」とされるのです。初めて表現された人物像は横顔や正面像ではなく、動きのある全身像でした。
【最盛期のアケメネス朝ペルシア帝国の版図】 このコインでは
王冠を戴く王が、右方向に向かって走る姿が表現されています。右手で槍を構えながら、左手には弓を持っています。王が持つ弓矢や槍といった武器は
王個人の武勇と、アケメネス朝ペルシアの軍事力を象徴していると考えられています。
またこの姿は王によるライオン狩りの様子を表現したものとも捉えられます。かつてリディア王国が発行したコインには、リディア王の権威の象徴として「ライオン」が表現されていました。このことからライオン狩りを行う王の姿はライオンに勝る存在として、リディア王国を征服したペルシア王の権威を象徴的に表しているとも考えられます。