• アテナ神/フクロウ
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NGC-XF(Strike:5/5, Surface:4/5)  ※NGCラベル表記上は「c.116/5 BC(?)」と記載



 紀元前2世紀、アッティカ地方の都市国家 アテネで発行されたテトラドラクマ銀貨。紀元前5世紀に多く発行されたアルカイック様式とは異なり、より大型で意匠が細かいヘレニズム風の様式になっています。


 表面には守護女神アテナの横顔像が打ち出されています。兜の形状や耳飾り、顔つきなどは大きく変化し、立体感は乏しいですがより写実的な表現になっています。

 裏面には、横になったアンフォラの上に立つフクロウが表現されています。壺には「A」銘が配されており、コインの型を区別する為の記号と考えられます。頭部の左右にはアテネを示す「ΑΘΕ」銘、右下には弓と竪琴を持つアポロ神が配されています。構図の周囲はオリーヴのリースで囲まれており、ヘレニズム時代に流行したコイン裏面のスタイルを取り入れています。


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                      アテネのアゴラ

   アゴラ(広場)は古代都市アテネの中心であり、コインを製造する造幣所はその一角に存在していた。


 このコインが発行された時代、アテネは最盛期の勢いを失い、ギリシャ世界の覇権はマケドニアやローマなどの大帝国に奪われていました。紀元前2世紀半ばにアンティゴノス朝マケドニアを滅ぼしたローマがギリシャへ進出した後も、アテネの政治的な独立性は認められていました。コインの発行も継続して認められ、周辺地域で流通する貿易通貨としての役割を維持していました。しかし紀元前88年のミトリダテス戦争の際、ローマに反旗を翻しポントス王国に与したことでスッラの激しい怒りを買い、殺戮と破壊がもたらされました。後にアテネ市内の造幣所も閉鎖され、従来のような価値のある大型銀貨の製造は禁じられたのです。

 その後、アテネは再起を図るためローマで内乱が勃発する度にマリウスやポンペイウス、ブルートゥス、マルクス・アントニウスを支援しましたが、与した勢力が全て敗北したため、その都度アテネは報復と懲罰の対象になりました。こうして紀元前1世紀末に至るまでに、アテネは都市国家としての政治的・経済的独立を喪失しました。

 しかしギリシャ文化と学術の中心都市としての価値は守られ、ローマ人にとっても尊敬の対象であり続けました。ローマの統治下に組み込まれた後、アテネはその歴史的価値から「自由都市」として自治を認められ、ローマから多くの留学生が集う文化都市として存続しました。アカデメイアなどの学校や神殿、公共建築物は歴代のローマ皇帝たちによって修復され、ネロ帝やハドリアヌス帝のようにアテネに憧れ、直接訪問した皇帝たちも多くいました。最盛期のような軍事力、経済力は喪失してもなお、ギリシャを代表する歴史的文化都市として存在感を保持していたのです。


 

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