紀元前2世紀半ば、小アジア西部のアイオリス地方で発行されたテトラドラクマ銀貨。表面には伝説上の女戦士部族
アマゾネスの横顔像が打ち出されています。アマゾネスは黒海沿岸部~小アジアに住んでいたとされ、トロイア戦争やヘラクレスの伝説にも登場します。後世にも広く知られ、16世紀にヨーロッパ人が南米を探検した際、大河を登る途中に女戦士の部族に襲われたことから、その川を「アマゾン川」と名付けたと云われています。
このコインが発行された都市キュメは、かつてアマゾネスの軍団がアイオリス地方に侵攻した際、当地で武功を立てた女戦士の名を冠して建設されたと伝えられます。そのため、このコインに表現されているアマゾネス像は、都市名の由来となった「キュメ」であるとされています。
このアマゾネス像の頬には刀傷のような線がみられます。陽刻であることから基の型に刻まれていたものとみられ、また他のコインにも同様の線が確認されていることから、意図的につけられたものである可能性もあります。
裏面には月桂樹のリースに囲まれた馬が表現されています。このように裏面のデザインをリースで囲むスタイルは、紀元前2世紀~紀元前1世紀頃のヘレニズム期、小アジア~フェニキアの諸都市で発行されたコインに多く見られます。この様式はローマに征服される直前の時期まで、各地の都市で広く流行していたとみられています。
アマゾネスのテトラドラクマ銀貨は小アジア西部、特にエーゲ海沿岸の都市遺跡から出土するケースが確認されています。壺などに入れられまとまった状態で発見されていることから、当時の人々が蓄財として退蔵し、その後何らかの理由で回収できなかったものとみられます。または神殿への献納品、都市の資産だった可能性もあります。