紀元前3世紀、エーゲ海のロードス島で発行されたディドラクマ銀貨。「ディドラクマ」は2ドラクマを意味し、1/2ドラクマ銀貨から4ドラクマ銀貨まで同じモティーフが刻まれました。
後にこのタイプの銀貨は、中世のドイツで「ユダがイエス・キリストを裏切った際に受け取った銀貨」として売られていました。表面「後光をたたえる長髪の太陽神ヘリオス」の姿が「茨の冠を被らされたイエス・キリスト」として認識され、ヴェネツィアの商人などがドイツ方面の教会に売り込んだと考えられています。裏面のバラの花もその認識を補強し、持ち込まれた教会では「聖遺物」の宝物として大切に保存されました。
エーゲ海に位置するロードス島は太陽神ヘリオスに捧げられた島と云われ、この島中に咲き誇り、太陽神も気に入ったとされるバラの花が象徴とされます。英語名ではそのまま「ローズ島」とも呼ばれているほどです。
ヘレニズム時代、ロードス島はプトレマイオス朝エジプトの庇護を受けながら、エーゲ海貿易の拠点として繁栄しました。
ヘリオス神と
バラを表現したロードス島のコインは各地で受け入れられ、ヘリオス神の印象的な正面像から人気があります。
ロードス島のヘリオス神に対する思い入れは強く、世界七不思議にも数えられた「ロードスの巨像」はヘリオス神を表現したものでした。BC284年に完成したヘリオス像は交易港の入り口を跨ぐようにして建てられ、灯台の役割も果たしました。
ロードス島の巨大へリオス神 (想像図) 伝承によれば高さ50mにも及ぶ巨像であり、当時の世界でも最高建築のひとつでしたが、BC226年の大地震によって倒壊し、後にその残骸すら跡形も無く撤去されました。このコインはまだ巨大ヘリオス像がロードスの港に聳え立っていた頃、ロードス島の華やかな時代に造られた遺産です。