イタリア半島南部のギリシャ系植民都市 タレントゥムで造られたディオボル銀貨。1/3ドラクマの価値に相当する非常に小さなコインであり、市民が日常的に使用した単位の銀貨とみられます。あまりに小さなコインのため、当時の人々は市場などへ買物で出かける際、紛失しないように口の中へ入れて運び、買物の際には吐き出して支払っていたと伝えられています。小さいながら繊細であり、限られたスペースの中に神話の世界が巧みに彫刻されています。
表面には知恵と戦術を司る女神
アテナの横顔像が打ち出されています。目鼻立ちや長髪、耳飾りまで確認でき、兜の装飾であるスキュラ(*海の怪物)までしっかりと表現されています。
裏面には、ギリシャ神話に登場する英雄ヘラクレスの名場面
「ネメアの獅子との激闘」が表現されています。凶暴なライオンと取っ組み合うヘラクレスは武器を捨て、腕に噛み付くライオンを素手で取り押さえようとしています。
ネメアのライオンとヘラクレスの闘い (ルーベンス作) ギリシャ神話の一つ「ヘラクレスの十二功業」に登場するこの場面は、ヘラクレスの超人的な強さを物語る伝説として古代ギリシャ・ローマでは広く知られていました。
ヘラクレスはミュケナイの王から様々な難題を命じられ、それをこなす為にギリシャ各地へ赴きます。その難題の一つが「ネメアの谷に住む凶暴な獅子の退治」でした。
ペロポネソス半島北東部ネメアの谷には凶暴な人食いライオンがおり、人々から恐れられていました。ヘラクレスは弓で射殺そうとしますが、その毛皮は刃物を通さない鋼のような硬さでした。そこでヘラクレスは武器を捨て、素手でライオンを取り押さえて絞め殺すことにします。洞窟に追い詰めたヘラクレスはライオンと取っ組み合い、その豪腕でついに凶暴な獅子を倒すことが出来たのです。
ヘラクレスはこのライオンの毛皮で頭巾を作り、戦いの際には常に被るようになりました。ヘラクレス像がライオンの毛皮を頭に被っているのはその為です。
尚、この時殺されたライオンは天空のゼウス神によって迎えられ、十二星座のひとつ「獅子座」にされたと云われています。