紀元前1世紀、共和政時代の古代ローマで造られたデナリウス銀貨。全体に美しい経年変化のトーンがかかった銀貨です。
表面には、月桂冠を戴く
大神ジュピター(ユーピテル)の横顔像が打ち出されています。ジュピターはギリシャ神話における「ゼウス」と同一視され、その容姿は豊かな髭を蓄えた、逞しい壮年男性像として表現されています。
裏面には、
山羊の毛皮を被ったジュノー(ユノー)女神の立像が表現されています。盾と槍を構える女神の右下には、とぐろを巻いた一匹の蛇が確認できます。
ジュノーはギリシャ神話の「ヘラ」に相当する神々の女王であり、ジュピター神の正妻とされています。山羊の毛皮を被った独特の姿は「ユノー・ソスピタ (救済のジュノー)」と呼ばれ、古代ローマでは女性や子どもたちを守護、救済する女神の姿とされていました。
ジュノー女神像 ヴァチカン美術館所蔵。コインと同じく山羊の毛皮を被り、槍と盾を構えた姿。
ジュノーは最高位の女神であり、多くの女神達を従える姿で表現されてます。時には王笏を手にし、自らの聖鳥である「孔雀」を引き連れた堂々たる姿で表現されることもあります。こうした力強いジュノーの姿と権威は、社会的地位の低かった現実の古代ローマ社会の女性達にとって心強い味方でもありました。6月はジュノー女神の月とされ、英名の「June」は女神の名前に由来しています。この月に結婚式を挙げた花嫁はジュノー女神の加護を受けられるとして、現在にも続く「ジューンブライド(六月の花嫁)」伝説が生まれたのです。
天上のジュノー女神 豪華な御車に乗り、二羽の孔雀に引かせた姿。先導役を務めるのは月の女神ルナ。