紀元前1世紀、共和政時代の古代ローマで発行されたデナリウス銀貨。刻印のズレはありますが、造り出されてから使用・流通した形跡がほとんどみられず、経年変化のトーンも程よくかかった美しいコインです。
裏面には
ローマ建国神話に登場する雌狼が表現されています。腹には多数の乳房が確認でき、この狼が雌であることを示しています。狼の目鼻立ちや毛並み、足の節々まで明確に確認できる保存状態です。前足を上げて堂々と歩む狼の上部には、発行都市ローマを示す「
ROMA」銘が配されています。
ロムルスはローマ建国者として知られ、またローマの伝説上の初代王として都市名の由来にもなりました。ロムルスとレムスは軍神マルスとラティウムの王女の間に生まれた双子の兄弟とされます。しかしその後、王位を簒奪したアムリウスによってテヴェレ川に流されました。そして岸に流れ着いたとき、一匹の雌狼が現われ、この幼い双子に自らの母乳を与えて飢えをしのがせたと伝えられています。
この伝説はローマ建国の象徴的エピソードとして広く知られ、後の時代を通してローマの礎であり起源、または象徴として捉えられてきました。
しかしこのコインでは建国者であるロムルス、レムス兄弟の姿は無く、兄弟を助けた雌狼の姿だけが大きく表現されています。狼をメインにした例はほとんどなく、当時のコインとしては特異な存在といえるでしょう。