18世紀初頭、イタリア北東部の海洋都市国家 ヴェネツィアで発行されたスクド銀貨。主に海外との交易に用いられたとみられる。 表面には、
聖典を持った有翼の獅子が表現されている。この独特なライオンはヴェネツィアの守護聖人マルコの聖獣とされ、ヴェネツィア共和国の象徴として公共施設などにも表現されている。
ライオンの下部には
貨幣価値140ソルディを示す「140」銘が刻まれ、周囲にはヴェネツィアの守護聖人の名を示す
「SANCTVS・MARCVS・VEN (ヴェネツィアの聖マルコ)」銘が配されている。
かつて地中海の海上交易を支配したヴェネツィア共和国は、広大な領土を持たないまでもその国際的な影響力から、中世ヨーロッパの有力国の一つだった。イタリアやバルカン半島、ギリシャ、エーゲ海に交易拠点を築き、ヨーロッパとイスラーム諸国との交易ネットワークを築いたヴェネツィアは「アドリア海の女王」と称され、文化・経済的な繁栄を長く謳歌した。
『ヴェネツィアに富を捧げる海神ネプチューン』 (ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ作 18世紀)
このコインが発行された18世紀当時には、既にヨーロッパ諸国は富を求めてアジアやアメリカ、アフリカへ進出し、ヴェネツィアの優位性は失われていた。しかし、依然ヨーロッパとオスマン=トルコ、エジプト等を繋ぐ要衝としての重要性は変わらず、都市には多くの人と富が集まっていた。
他のヨーロッパと比べて宗教的制約が少なく、政治や出版の自由が認められていたヴェネツィアには華やかな文化が開花する。ルネサンス以降は「ヴェネツィア派」と呼ばれる画家たちが、宗教画のみならずヴェネツィアの風景や風俗を盛んに描き、憧れの華やかな都市としてさらに人々を惹き付けることになった。当時発行され流通していたコインは中世以来の伝統的なデザインが施されていたが、ヴェネツィアの繁栄を影で支える重要な富として活躍した。