19世紀~20世紀初頭のモロッコはヨーロッパの列強各国が利害を争い、イギリス、スペイン、ドイツなどが影響力を行使していました。特にフランスはモロッコを統治するアラウィー王朝を事実上の保護下に置き、内政や財政に深く関与しました。
このコインはフランスの造幣局が製造を請け負い、モロッコ国内で流通させたものです。当時の君主ユースフの名銘がアラビア語で刻まれています。偶像崇拝を忌避するイスラームの教えに従い、六芒星の紋様を組み合わせたアラベスク紋様のみのデザインです。当時のモロッコの銀貨はフランスだけでなく、イギリスやドイツの造幣局でも製造され、それぞれにアラビア語で「パリ」「ロンドン」「ベルリン」など造幣都市銘が刻まれています。当時のモロッコとヨーロッパ列強の関係性が、そのままコインに表されています。
モロッコとヨーロッパ列強の関係を示した風刺画 (1903年) 1912年までにモロッコはフランスとスペインによって分割され、名実ともに完全な保護国となりました。モロッコが再び独立するのは20世紀半ば、1956年のことでした。