アントニヌス朝時代の古代ローマ帝国で発行されたセステルティウス貨。大型のコインであるセステルティウスは、当時のローマ市民にとって身近なコインの一つでした。日常の買物や各種支払いに用いられ、様々な物品の値段を記した古文書にも会計単位として登場します。
1世紀~2世紀頃のセステルティウスはおよそワイン1リットルの価格に相当し、ローマ人の生活に欠かせないコインでした。1/4デナリウス、アス銅貨では4枚の価値に相当したセステルティウス貨は「アウリカルクム(※古代ギリシャの文献に登場する幻の金属 オリハルコンに由来)」と呼ばれる真鍮(黄銅)によって造られており、製造時は鈍い金色をしていました。長い年月を経て現存しているものは、その大半が変色し、黒っぽい緑色をしている例が多く見受けられます。また日常的に頻繁に使用されたコインであるため、保存状態が良く残されているものは希少であり、時には銀貨よりも高い評価を受けて取引されます。
通常、古代のコインは壺などに入った状態でまとまって出土します。その多くは当時の人々が貯蔵していたものですが、一般的には価値の高い金貨や銀貨が蓄財されていました。一般的に広く流通していたセステルティウスは日常生活で使用されるため、あまり蓄財されず、また材質の問題から美しい状態で出土することは稀です。