ミトラダテス2世時代のアルサケス朝パルティアで発行されたドラクマ銀貨。このコインは、アルサケス朝の春季の王都ラーガイで造られました。
パルティアは現在の中央アジア~イラン~イラクに至る広大な地域を支配した大国であり、しばしばアルメニアやメソポタミアなどを巡ってローマと対決しました。古代オリエントの強大国でしたが、国内はいくつかの従属国からなっており、その文化は遊牧民的要素とギリシャ的要素を組み合わせたヘレニズム様式でした。
パルティアは中国とローマを結ぶ東西交易路「シルクロード」の重要な通過点として4世紀以上にわたって繁栄し、経済活動の活発化で多くのコインを発行しました。しかし国内の内乱やローマとの戦争によって国力は衰退し、やがてイラン高原に興ったササン朝によって滅ぼされました。パルティアの遺跡や芸術などの遺産は比較的少なく、現存しているものを目にすることは容易ではありません。最も多く残されたコインは、当時の繁栄と歴史を今に伝えています。
パルティア時代の神殿『ハトラ遺跡』 (イラク) ※パルティアの要衝として繁栄した、メソポタミア地方の古代都市遺跡。当時よりローマ軍の攻撃を受けていたが、近年はイラク戦争やIS(イスラム国)による占領などでさらに破壊され、現在は「世界危機遺産」に登録されている。
コインの表面には、
ミトラダテス2世(在位:BC124年~BC88年)の横顔肖像が打ち出されています。頭部にはダイアデム(帯)を巻き、耳には輪状の飾りをつけています。ミトラダテス2世はパルティア最盛期の君主であり、アルメニアやセレウコス朝シリア、ローマと戦い領土を拡大させたことから「大王」の尊称号で呼ばれています。
裏面には弓を持った射手の坐像が表現されています。
この射手像はアルサケス朝の創始者であるアルサケス1世とされています。周囲部には「ΒΑΣΙΛΕΩΣ ΒΑΣΙΛΕΩΝ ΜΕΓΑΛΟΥ ΑΡΣΑΚΟΥ ΕΠΙΦΑΝΟΥΣ (諸王の王 偉大なるアルサケス 顕神王)」の銘が刻まれています。
座る射手(アルサケス1世)の顔や表情、衣服の襞まで明瞭に判別でき、周囲部に刻まれた銘文も確認することができます。刻印の打ち出しが非常に良く、保存状態も美しい貴重な一枚です。