19世紀半ば、南ドイツのバイエルン王国で発行された1ターレル銀貨。磨耗や傷が少ない、美しい保存状態です。
裏面に表現された
聖母マリアと幼子キリストは、カトリック圏である南ドイツを象徴するデザインです。雲上に座す聖母マリアは王冠と王笏を携え、左手で幼子イエスを抱えています。その左足は三日月の上に載せられており、マリアが天上世界の女王であることを示しています。聖母に抱えられたイエスは右手を高く掲げ、小さな左手で宝珠を携えています。神聖性と権威に満ちた姿で表現された聖母子像は、マリア信仰が盛んなカトリック、南ドイツを象徴する意匠です。
表面にはバイエルンの若き国王
ルートヴィヒ2世 (在位:1864年~1886年)の横顔肖像が打ち出されています。まだ髭を蓄えておらず、繊細な美青年王としての面影を残した肖像です。ルートヴィヒ2世は繊細なロマンチストとして知られ、その精神的不安定さから「狂王」とあだ名されました。
若くしてバイエルン王に即位したルートヴィヒ2世は政務を近臣たちに任せ、自らは芸術や音楽の世界に没頭していました。当初、美貌の青年王の登場に多くの国民は歓迎しましたが、ルートヴィヒ2世自身は内政に関心を見せず、ワーグナーなど音楽家への支援や自らの理想を体現した城の建設などに莫大な資金を費やします。
1871年のドイツ統一後には、ルートヴィヒ2世の同性愛傾向や夢想的な言動、奇行がますます目立ち、様々な噂が国民から周辺の国々にまで拡がっていました。この時期に、ドイツで最も有名な城として知られる「ノイシュヴァンシュタイン城 (新白鳥城)」の建設が進められました。
ルートヴィヒ2世は首都ミュンヘンから離れて山中の城に篭ることが多く、そこで昼夜逆転の生活をしていたとされます。夜になると豪華なそりに乗って外を走り回り、近隣の村人を驚かせたという伝説が残されました。
1886年にバイエルン政府は国王が精神異常に陥り、政務を遂行することが不能になったとして王権を停止します。王国の財政を傾けてまで建設した自らの理想の城「ノイシュヴァンシュタイン城」にいた王は取り押さえられ、精神病患者として軟禁状態に置かれました。その後、王は医師と共に湖畔へ散策に出かけた後、謎の死を遂げます。
様々な逸話を残し、夢と理想の世界で生き続けたルートヴィヒ2世は、彼の遺した作品であるノイシュヴァンシュタイン城と共に、多くの人々に語り継がれています。
ノイシュヴァンシュタイン城