8世紀末のイスラーム帝国、アッバース朝で発行されたディルハム銀貨。第5代カリフ
ハールーン・アッラシード (在位:786年~809年)の治世下に、首都マディナ・アル=サラームの造幣所で造られました。
アッバース朝は預言者ムハンマドの後継者を自任するカリフ(教主)を頂点とし、アラビア半島からペルシア、エジプト、シリア、カフカース、中央アジアに至る広大な領域を支配した大帝国でした。ハールーン・アッラシードの時代はアッバース朝の最盛期とされ、首都マディナ・アル=サラーム(「平安の都」の意。現在のイラク,バグダード)はビザンチン帝国のコンスタンティノポリス、唐の長安と並ぶ、世界有数の大都市として繁栄しました。ディルハム銀貨は首都をはじめ、帝国各地の主要都市で製造され、交易や納税を通じて広く使用されました。
カール大帝の使者を接見するハールーン・アッラシード ハールーン・アッラシードの治世には経済的・文化的にも発展をみせ、アラビア文学の代表作『千夜一夜物語(アラビアンナイト)』の原型が成立した時代でもあります。千夜一夜物語の中にはカリフと大臣の物語が多く収録され、お忍びで街に繰り出す物語や、知恵比べをする物語が存在します。このカリフはハールーン・アッラシード、大臣はジャアファル・アル=バルマキーがモデルになっており、当時の知識人や上流階級の間でも人気があった様子が窺えます。
現代においてこの二人は、ディズニー映画『アラジン』に登場する王様と大臣ジャファーのモデルになったことでも知られています。