17世紀末のイタリアの海洋都市国家 ヴェネツィアで発行されたゼッキーノ金貨。ダカットとも呼ばれたこの金貨は主に貿易に利用された金貨であり、約3.5gの純金で作られました。13世紀から18世紀末の共和国滅亡まで発行され、その間も重量と高品位は保たれました。中世~ルネサンス期の地中海では貿易通貨としても広く流通した金貨です。
18世紀のヴェネツィア風景 (アントニオ・カナーレ作) 表面にはヴェネツィアの守護聖人である聖マルコが立ち、傍らには跪く当時の元首(ドゥーチェ) シルヴェストロ・ヴァリエルの姿が打ち出されています。周囲部の銘文は二人の名を示しています。そして裏面には、輝く星に囲まれたイエス・キリストの立像が表現されています。
かつて地中海の海上交易を支配したヴェネツィア共和国は、広大な領土を持たないまでもその国際的な影響力から、中世ヨーロッパの有力国の一つでした。イタリアやバルカン半島、ギリシャ、エーゲ海に交易拠点を築き、ヨーロッパとイスラーム諸国との交易ネットワークを築いたヴェネツィアは「アドリア海の女王」と称され、文化・経済的な繁栄を長く謳歌しました。
『ヴェネツィアに富を捧げる海神ネプチューン』 (ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ作 18世紀)
このコインが発行された17世紀当時には、既にヨーロッパ諸国は富を求めてアジアやアメリカ、アフリカへ進出し、ヴェネツィアの優位性は失われていました。しかし依然ヨーロッパとオスマン=トルコ、エジプト等を繋ぐ要衝としての重要性は変わらず、都市は多くの人と富で賑わいました。
他のヨーロッパと比べて宗教的制約が少なく、政治や出版の自由が認められていたヴェネツィアには華やかな文化が育ちました。ルネサンス以降は「ヴェネツィア派」と呼ばれる画家たちが宗教画のみならずヴェネツィアの風景や風俗を盛んに描き、憧れの華やかな都市としてさらに人々を惹き付けることになったのです。
この当時発行され、流通していたコインは中世以来の伝統的なデザインが施されていましたが、ヴェネツィアの繁栄を支える重要な富として広く受け入れられました。
『眠れる少女』ドミニコ・フェッティ作。1620年~1622年頃に描かれた作品。少女の髪飾りや服装、刺繍から17世紀のヴェネツィアの富と繁栄が垣間見えます。