紀元前4世紀後半、南アラビアに栄えた古代王国サバアで造られたテトラドラクマ銀貨。このデザインは、同時期にギリシャのアテネで発行されていたテトラドラクマ銀貨、
通称「フクロウコイン」を模倣して造られています。 しかしアテネで発行されたオリジナルとは異なり、アテナ神の鼻は明らかに大きく、目と眉の造型は稚拙です。またフクロウの羽毛は荒く大雑把に表現され、右側の「Α」の形状も独特です。
サバア王国はアラビア半島南部、現在のイエメンに存在した王国です。旧約聖書に登場する
「シバの女王」で知られた、シバ王国と同一視されています。 ソロモン王とシバの女王 旧約聖書に登場するシバ王国と同じく、古代のサバア王国も交易によって栄えた豊かな国でした。インド洋~アラビア半島~地中海へ至る交易路にあったサバア王国は、乳香など香料を輸出することで繁栄し、最盛期には対岸のエチオピアにも勢力を拡大させました。各地の人と物が行き交うサバアにも、遠くギリシャで流通していたフクロウコインがもたらされました。当時アテネのフクロウコインは交易決済通貨として支払われ、東方の地の人々にとっても親しみあるコインでした。そのためサバア王国ではアテネのコインをそのまま模倣した銀貨が発行され、交易などで用いられたと考えられています。
遠くアラビアの王国で造られたフクロウコインには、当時の人々の営みや価値観がそのまま反映されています。