19世紀~20世紀初頭のモロッコはヨーロッパの列強各国が利害を争い、イギリス、スペイン、ドイツなどが影響力を行使していました。特にフランスはモロッコを統治するアラウィー王朝を事実上の保護下に置き、内政や財政に深く関与しました。
このコインはフランスのパリ造幣局が製造を請け負い、モロッコ国内で流通させたものです。当時の君主アブドゥル=ハフィドの名銘がアラビア語で刻まれています。偶像崇拝を忌避するイスラームの教えに従い、六芒星の紋様を組み合わせたアラベスク紋様のみのデザインです。六芒星のスタイルや年銘の配置は発行した王によって異なり、年代によって様々なバラエティがあります。
網模様のような六芒星の内部には、アラビア語で「10ディルハム パリで製造 1329(=ヒジュラ暦)」銘が刻まれています。裏面には上部に六芒星が配され、リースの内部には「栄光あるハフィドによって発行された1リアル」を意味する銘文が刻まれています。
モロッコとヨーロッパ列強の関係を示した風刺画 (1903年) 1912年までにモロッコはフランスとスペインによって分割され、名実ともに完全な保護国となりました。フランスが保護下に置いた地域ではアラウィー朝の権威が表面的に認められ、独自のコインも発行、流通していましたが、フランス外国人部隊が常駐して反乱を押さえ込むなど、実質的な植民地経営が行われていました。モロッコが再び独立するのは20世紀半ば、1956年のことでした。