3世紀後半の古代ローマ帝国で発行されたアントニニアヌス貨。当時のアントニニアヌス貨は銀の割合が5%以下に低下し、ほとんど銅貨といっても差し支えの無いコインでした。しかし表面には銀メッキを施し、少ない銀分量で銀貨のように見せていたようです。このコインは当時の銀がまだ残されており、両面の細やかな造型、刻印も明確に残された良好な保存状態です。
3世紀後期のローマ帝国を統治した皇帝
アウレリアヌス (在位:AD270年~AD275年)は、危機の時代といわれた軍人皇帝時代にあって、最も卓越した皇帝と云われています。
武勇に長けたアウレリアヌス帝は北方のゲルマン人やヴァンダル族との戦いに勝利し、西方の叛乱政権 ガリア帝国も制圧した功績で知られます。また、
女王ゼノビアが率いる東方の大勢力 パルミュラ王国をも滅ぼしたことで、分裂状態にあったローマ帝国の再統一を果たしたのです。
女王ゼノビアをローマへ連行するアウレリアヌス帝 わずか5年の治世中に諸敵を征伐したアウレリアヌス帝は、元老院より
「世界の復興者」という尊称号を授けられました。現在でも彼の名は、北方の蛮族を防ぐために築かれた防御壁「アウレリアヌスの城壁」で知られています。
このコイン裏面には、太陽神ソルの立像と共に、二人の捕虜が表現されています。ソル神はアウレリアヌス帝の武勇を象徴し、捕虜は戦争に敗れた敵軍を示しています。このコインはローマ帝国を再統一した、武帝アウレリアヌス帝の偉大な功績を顕彰しているのです。
アウレリアヌス帝は低下の一途を辿っていたコインの質を向上させるために、貨幣改革も実施しました。記録によるとこのコインが造られたAD274年に、改革に反発するローマ造幣所の管理者たちが叛乱を起こし、ローマ市内における一連の戦闘で7000人もの犠牲者が出たと伝えられます。