表面の皇帝
ゴルディアヌス3世 (在位:AD238年~AD244年)の肖像は、打ち出しの盛り上がりが良く、非常に美しい状態で今日まで残されています。幼さが残る少年皇帝の顔つきの細部まで残した、希少な状態といえるでしょう。
裏面には
ヘラクレスの立像が表現されています。神話上の英雄の筋骨隆々とした肉体や、髭に覆われた顔つきまでしっかりと確認できます。
このヘラクレス像にはモデルがあるとされ、ローマ市内の「カラカラ浴場」にあった巨大な像を表現したのではないかと推察されます。
ファルネーゼのヘラクレス (ナポリ国立考古学博物館)
高さ3.17mという巨大なヘラクレス像はAD216年に製作され、カラカラ帝がローマ市内に建設した大浴場、通称「カラカラ浴場(※当時の呼び名はアントニヌス浴場)」に飾られました。現在はナポリ国立考古学博物館に収蔵され、所有者であった貴族の名から「ファルネーゼのヘラクレス」と呼ばれています。
裸のヘラクレスが右手を後ろに回し、左手に持った棍棒とライオンの毛皮を岩の上に置いて一休みする、英雄休息の場面です。同様の構図のヘラクレス像は、古代ギリシャ時代から広くみられましたが、このコインにはファルネーゼのヘラクレスと全く同じ構図が表現されています。
このコインを製作した人物も浴場で一息つきながら、新しいデザインを思索していたのかもしれません。