コムネノス朝時代のビザンチン帝国(東ローマ帝国)で造られたヒュペルピュロン金貨。この金貨は帝都コンスタンティノポリスの造幣所で造られました。
独特な製造方法から御椀状になっており、通称「カップコイン」とも呼ばれています。このコインでは、表面のイエス・キリスト像が凸になり、裏面の皇帝像が凹になっています。
表面に表現されたイエス・キリストの坐像は、コンスタンティノポリス(現在のイスタンブール)に健立されたアヤソフィア大聖堂内にあるモザイクイコンと同じ構図であり、伝統的なビザンチン様式を形容していることが分かります。
キリストの頭部には十字架を模した頭光が配され、左右にはギリシャ系の正教会でイエス・キリストの名を示す略銘「IC XC」が刻まれています。左腕で聖典を抱え、右手を天に掲げています。三本の指を重ねた手の形は、三位一体の神を象徴し、二本の指を曲げて掌につけて、キリストの神性と人性を表すとされています。
イエス・キリストのモザイクイコン (アヤソフィア大聖堂、11世紀) 裏面には
皇帝アレクシオス1世コムネノス(在位:1081年~1118年)の正装立像が表現されています。装飾が施された豪華な衣を身に纏い、聖笏と宝珠を手にしています。この正面像の構図は、イエス・キリストや聖母マリアなどのイコンに代表されるように、キリスト教の神聖性を象徴するものです。ここではビザンチン皇帝が東方正教会の長であり、守護者であることを示しています。
尚、実際の宝珠(小さな十字架が付けられた球)は一つですが、このコインでは連環の数珠状になっています。型が複数種類ある内、一つの球で表現されたタイプと、このコインのように多数の球が表現されているタイプがあります。
アレクシオス1世はビザンチン帝国コムネノス朝の祖であり、武勇をもって外敵に対抗した武帝として知られます。ビザンチン帝国の中興の祖として評価されていますが、その治世中に十字軍の大遠征が開始され、ヨーロッパ十字軍とイスラーム軍の長い戦いに巻き込まれることになりました。