紀元前2世紀半ばの小アジア、イオニア地方のマイアンドロス川沿いの古代都市マグネシア(*現在のトルコ西部,アイドゥン県テキン村西部近郊, メンデレス川沿い)で造られたテトラドラクマ銀貨。
表面には
アルテミス女神の横顔像、裏面には
アポロ神の立像が表現されています。アルテミスは光明神アポロの妹(*または姉)とされています。
表面のアルテミス女神像は長髪を結い上げ、矢筒を背負った狩人の姿で表現されています。
アルテミスは月と狩猟、貞潔の女神とされ、特にエフェソスでは大神殿が建立され篤く信奉されていました。小アジアでは大地母神信仰と混交して、独特なアルテミス崇拝が存在していたと想定されています。
裏面のアポロ神は裸で三脚鼎の横に立つ姿で表現され、周囲部にはアポロ神の象徴である月桂樹のリースで囲まれています。
裏面のデザインを月桂樹のリースで囲むスタイルは、紀元前2世紀~紀元前1世紀頃のヘレニズム期、小アジア~フェニキアの諸都市で発行されたコインに多く見られます。
デルフォイのアポロ神殿遺跡 デルフォイ(現在のギリシャ,ポーキス地方 パルナッソス山南麓)にはアポロ神の聖域があり、その神殿ではアポロ神の神託を授かると云われていました。ギリシャ各地から神託を求める人々がデルフォイに巡礼し、神殿の巫女たちの口を通じてアポロ神の神託を授かりました。この神託は古代ギリシャ世界にとって重要なものと認識され、政治的な決定や戦争の勝敗、植民都市の建設予定地や行事の催行日までを左右するほどでした。
神殿にはタレスやソロンなど七賢人の手を経て納められたと伝わる三脚鼎があり、巫女たちは鼎の上に腰掛けることでアポロ神と交信し、神託を授かる儀式を行いました。そのため、三脚鼎はアポロ神を象徴する神器となり、コインや彫刻などで頻繁に表現されるようになりました。