紀元前4世紀末の古代マケドニア王国で発行されたテトラドラクマ銀貨。このコインは両面共に明瞭に打ち出された
「Well struck」の状態であり、収蔵されるにはお奨めの極美品です。表面の大神ゼウスの横顔像と、裏面の騎馬少年像の造形は細かく、刻印の打ち出しも外れていない理想的なスタイルです。
コインの表面には
月桂冠を戴く大神ゼウスが表現されています。豊かな頬髯と太く流れる頭髪の表現は、まさに神々の王にふさわしい堂々たるものです。このゼウス神像は、発行を始めたフィリッポス2世をモデルにしているとも云われています。
裏面には、
馬に跨った裸の少年像が表現されています。左手で手綱を握り、右手で椰子の枝葉(栄光の象徴)を持っています。上部には
発行者フィリッポス王の名銘「ΦΙΛΙΠΠΟΥ」が刻まれています。
この騎馬少年像は、一説には「少年時代のアレキサンダーと愛馬ブケファロス」を表現したものと云われています。 フィリッポス2世に献上された駿馬ブケファロスは、暴れ狂う荒馬ぶりから誰も手懐けることができませんでした。
すると少年であった王子アレキサンダーが進み出てブケファロスを手懐け、見事乗りこなすことに成功したと云われています。この姿を見た父王フィリッポス2世は息子の豪胆さと将来有望性に大変喜び、自ら発行するコインの裏面にもその勇姿を表現させたと考えられています。
王子アレキサンダーと愛馬ブケファロス 後にブケファロスはアレキサンダー大王の愛馬として東方遠征でも活躍し、伝説的名馬としてその名を歴史に残しました。東方各地ではブケファロスにまつわる伝承が残されており、実在した動物として歴史に記録された、珍しい例といえます。
ブケファロスを表現したコインはセレウコス朝やインド=グリーク朝などで発行されていますが、最も有名なものはこのテトラドラクマ銀貨です。
このコインはフィリッポス3世 (在位:BC323年~BC317年)の治世下、マケドニア南部の古代都市 アンフィポリスで造られました。アンフィポリスはマケドニアにおける交通と経済、軍事上の要衝となった重要な都市でした。
当時はアレキサンダー大王(アレクサンドロス3世 在位:BC336年~BC323年)が発行を開始した、大王の姿に模したヘラクレス像が表現されたテトラドラクマ銀貨(アレキサンダーコイン)が各地で広く流通していました。アレキサンダー大王は、その当時ギリシャ世界の交易で受け入れられていたアテネのフクロウコインの基準(約17g前後)を採用し新たなテトラドラクマ銀貨を発行しましたが、それ以前はマケドニア基準(約14g前後)のコインを発行していました。
このコインはアレキサンダー大王の父親であるフィリッポス2世(在位:BC359年~BC336年)が発行を始めたタイプであり、マケドニア基準のテトラドラクマ銀貨です。アテネ基準で造られたアレキサンダーコインが広く流通して以降もマケドニア本土とその周辺部では、古くからの基準のコインが受け入れられていたことを示しています。