紀元前2世紀、アッティカ地方の都市国家 アテネで発行されたテトラドラクマ銀貨。紀元前5世紀に多く発行されたアルカイック様式とは異なり、より大型で意匠が細かいヘレニズム風の様式になっています。
表面には、都市の守護女神
アテナの横顔像が打ち出されています。豪華な装飾が施された兜を被り、特徴的な形状の耳飾りをつけています。
裏面には、横になったアンフォラの上に立つ
フクロウが表現されています。壺には「Κ」銘が配されており、コインの型を区別する為の記号と考えられます。構図の周囲はオリーヴのリースで囲まれており、ヘレニズム時代に流行したコイン裏面のスタイルを取り入れています。
このコインが発行された時代、都市国家アテネは最盛期の勢いを失い、ギリシャ世界の覇権はマケドニアやローマなどの大帝国に奪われていました。紀元前2世紀半ばにアンティゴノス朝マケドニアを滅ぼしたローマがギリシャへ進出した後も、アテネの政治的な独立性は認められていました。コインの発行も継続して認められ、周辺域で流通する貿易通貨としての役割を維持していました。しかし紀元前88年のミトリダテス戦争の際、ローマに反旗を翻しポントス王国に与したことでスッラの激しい怒りを買い、殺戮と破壊がもたらされました。後にはアテネ市内の造幣所も閉鎖され、従来のような価値のある大型銀貨の製造は禁じられたのです。
数百年続いたフクロウコインにおける最後のタイプであり、古代都市アテネの最後の繁栄を現在に伝えています。