ヘレニズム時代に栄えたギリシャ系王朝の一つ、グレコ=バクトリア王国で発行されたテトラドラクマ銀貨。表面には王の肖像、裏面にはギリシャ神話の神が表現された、典型的なヘレニズムスタイルのコインです。
表面には
アンティマコス王の横顔肖像が打ち出されています。頭に被る帽子は「カウシア」と呼ばれ、マケドニアの伝統的な帽子でした。
また裏面には
海の大神ポセイドンが表現されています。三叉矛を持った海神の左右には、発行者である王の名を示す「
ΒΑΣΙΛΕΩΣ ΘΕΟΥ ΑΝΤΙΜΑΧΟΥ (神君アンティマコス)」銘が刻まれています。海洋とは程遠い内陸のバクトリアにおいて、海神の姿が刻まれたコインが見られることは興味深い事例です。遠く離れたギリシャ文化が中央アジアの地で根付いていたことの証です。
バクトリアの主要なギリシャ式都市 アイ=ハヌムの遺跡 バクトリア王国は現在のパキスタン、アフガニスタン、イラン北部、インド北西部にまたがる広大な領域を支配した王国でした。アレキサンダー大王(マケドニア王アレクサンドロス3世)による東方遠征の後、現地に残留したギリシャ系兵士達は独自の文化を守り、各地で大きな勢力を保持しました。紀元前3世紀の中頃、セレウコス朝シリアから分裂したバクトリア王国は、ヨーロッパとインド大陸、中国大陸との交易の中継地として繁栄し、その領土も拡大を続けました。その中においても、各種彫刻に代表される芸術文化や、ドラクマ、スターテルといった幣制に至るまで、遠く離れたギリシャ本土の文化を保持したのです。