19世紀初頭のイギリスで発行された1ペニー・トークン銅貨。「トークン」とは少額貨幣が不足した頃に発行された代用貨幣であり、イギリスでは地方都市や海外植民地で発行されました。発行主体は都市の有力商人や商会であることが多く、地域の経済活動を円滑にするために発行しています。このコインは北米植民地(カナダ)またはアイルランドのダブリン市向けに製造されたトークン貨です。
ウェリントン公爵 アーサー・ウェルズリー アーサー・ウェルズリー(1769年~1852年)はイギリスの陸軍軍人であり、ナポレオン率いるフランス軍との戦いで功績を残した英雄です。このコインが発行された1813年当時はスペインでの戦いでフランス軍を破り、ナポレオンに大きな打撃を与えました。1815年のワーテルローの戦いでは対仏連合軍を大勝利に導き、ナポレオンの時代に終止符を打ちました。戦後は外務大臣や首相を歴任し、ヴィクトリア女王の時代まで長老政治家として活躍しています。
なお「ウェリントン」の称号はスペイン戦役の功績に際して授けられたものであり、後に戦役を経るごとに子爵から伯爵、侯爵、公爵へと昇進を重ねました。このコインの肖像周囲部には軍人らしく「FIELD MARSHAL WELLINGTON (陸軍元帥ウェリントン)」の称号で表されています。
ナポレオン戦争中、政府は武器や戦艦の生産に追われ、庶民が日常で使用する1ペニーや1/2ペニー単位の少額銅貨の生産を滞らせていました。そのため各地の商人や都市は、思い思いの自由なデザインを施したトークンを多く発行しました。当時イギリス国民の英雄となっていたウェリントン将軍も、同じくトークンのデザインとして用いられました。
国王や女王以外の存命中の人物が、イギリスのコインに表現されるのは大変異例なことでした。 このトークン銅貨は、庶民向けに発行されたにも関わらず、鑑賞に堪えうる良好な状態を保っています。200年前、ナポレオン戦争中の一般市民が日常で用いた大型銅貨。歴史を感じるおすすめのコインです。