2世紀半ば、最盛期を謳歌していた時代の古代ローマ帝国で発行されたアウレウス金貨。当時のアウレウス金貨は金の純度が高く、公的には一枚でデナリウス銀貨25枚、セステルティウス貨100枚の価値に定められていました。そのため大量に造られることはなく、主に国家の特別な支出(建設事業や恩賞金)として発行されていたと考えられます。
この金貨は「ローマ五賢帝」の一人として知られる
アントニヌス・ピウス帝(在位:AD138年~AD161年)の治世に発行されました。金貨の表面には月桂冠を戴き、天空を見据えた老皇帝の横顔肖像が打ち出されています。周囲には
「ANTONINVS AVG PIVS P P TR P XXIII (アントニヌス帝 敬虔なる国父 護民官特権の保持二十三回)」の銘が刻まれています。
アントニヌス・ピウス帝の23年に及ぶ治世は「秩序の支配する平穏」とも称され、大きな騒乱や政治的変動が無く、社会全体が安定した時代でした。この頃ローマ帝国の版図は史上最大になり、ローマの社会生活は成熟期を迎えていました。また皇帝自身が清廉潔白で申し分の無い人物であったことから、この繁栄と安定の時代を象徴する皇帝として輝かしく記録されることになりました。
アントニヌス帝の称号「ピウス」は敬虔、思慮深さを表し、皇帝を讃えるために元老院が授与した尊称でした。
裏面には
敬虔と孝徳の女神ピエタスが表現されています。三人の小さな子どもたちに囲まれたピエタス女神は、左腕で幼児を抱き、右手で球体(世界=ローマ帝国を象徴)を掲げています。周囲には「PIETATI AVG(ピエタス女神)」の銘と、当時のアントニヌス・ピウス帝を示す「COS IIII(執政官四回目)」の銘が刻まれています。
多くの幼児と共に表現された、大変興味深い女神像。
当時、この「孝徳=ピエタス(PIETAS)」を持つ人物、または称号化したものを「ピウス(PIVS)」と呼びました。 古代ローマ帝国が最も裕福で最も繁栄した時代に造りだされた金貨。ローマ皇帝アントニヌス・ピウスの人柄を象徴的に表現した、古代の至宝です。