紀元前4世紀の古代マケドニア王国、
アレキサンダー大王(アレクサンドロス3世)の在世中に発行されたスターテル金貨。この金貨は大王が行った
「東方遠征」に際して発行されたものと考えられ、大変美しい状態で残された希少な古代金貨です。
表面には知恵と戦術を司る
女神アテナの横顔が打ち出されています。頭部には大蛇をデザインしたコリント式兜を被り、その下からは美しく整えられた巻毛が出ています。
このアテナ女神像は、当時アテネのアクロポリスに存在した巨大青銅像「アテナ・プロマコス」を手本にして作られたとされています。古代アテネの名匠フェイディアスが手掛けたアテナ女神像は当時から名高く、全ギリシャ世界で通用させる金貨の意匠としても採用されました。その本体が失われた今では、この金貨によって在りし日の姿が記録されています。
アテネ アクロポリスの丘とパルテノン神殿と青銅像「アテナ・プロマコス」(想像図) 裏面には
勝利の女神ニケが表現されています。大きな背翼を広げたニケ女神は右手で勝利者に捧げる月桂冠を持ち、左手で「ステュリス」と呼ばれる古代海軍の帆柱を支えています。右端には発行者アレキサンダーの名を示す
「ΑΛΕΞΑΝΔΡΟΥ」の銘が刻まれています。
このデザインはギリシャ海軍がペルシア海軍に勝利したことを示し、大王の東方遠征の成功を誇示するものです。
当時、アレキサンダー大王が征服した都市で造らせたスターテル金貨は、交易上の決済のほかに軍功を立てた将兵への恩賞として利用されました。
大王は金鉱山の開発を進めると共に、アケメネス朝ペルシア帝国を打ち破った後は、戦利品として大量の金がもたらされました。金銀は各都市の造幣所に送られ、多くのコインに変えて戦費にされたのです。この金貨・銀貨の大量供給はヘレニズム・オリエント世界の経済を変化させ、大王が亡くなった後も、彼の後継者たちは「ΑΛΕΞΑΝΔΡΟΥ」の名銘を刻んだコインを発行し続けたのです。