4世紀末、テオドシウス1世統治下のローマ帝国で発行されたソリダス金貨。
テオドシウス1世はローマ・ギリシャの伝統的な多神教を否定し、キリスト教を帝国唯一の国教に定めたことから「大帝」とも呼ばれています。
テオドシウス帝によるキリスト教国教化は多神教の否定であり、同時に古代ギリシャ・ローマ時代の終焉を意味していました。キリスト教が国家にとって唯一の公認宗教となったことで、ローマの神々は信仰の対象から公的に外され、数々の彫像や神殿が破壊・改修されてゆきました。1000年以上も絶えることなく続いていたギリシャ、オリンピアの祭典(古代オリンピック)も、テオドシウス帝によって廃止されたと記録されています。
また、統一されたローマ帝国の最後の皇帝としても知られ、その後二人の息子が帝国を東西に分割しました。長男のアルカディウスは東ローマ帝国(ビザンツ)、次男ホノリウスは西ローマ帝国を継承し、二つのテオドシウス朝が地中海世界を支配してゆきます。
聖アンブロシウスに聖堂入場を拒まれるテオドシウス帝 (ヴァン・ダイク作) ソリダスは4世紀以降発行された金貨であり、当時は交易決済通貨として広く流通しました。薄い金貨ですが金純度は高く、繊細なデザインが施されています。ソリダス金貨は東ローマ(ビザンツ)帝国にも継承され、現代の経済史では「中世のドル」と呼ばれるほど広範囲で受け入れられました。
金貨の表面には、宝冠帯を巻く
テオドシウス1世(在位:AD379年~AD395年)の胸像が打ち出されています。左右にはテオドシウス帝の尊称号銘「
D N THEODOSIVS P F AVG (我らの主 テオドシウス 敬虔にして幸運なる帝)」が刻まれています。
裏面には、帝都コンスタンティノポリスの守護女神が表現されています。武装した女神は玉座に座り、右手で長槍、左手で
「VOT X MVLT XV」の銘が刻まれた円盾を支えています。この銘文は皇帝の治世が10年、15年と続いてゆくことを祈念するものと考えられています。
下部にはコインの発行都市 コンスタンティノポリスを示す
「CON OB」銘が刻まれています。
治世の末になってキリスト教を国教に定め、ギリシャのオリンピックまで廃止したテオドシウス大帝も、自らが発行するコインの上では伝統的な様式を保っていたことが分かります。