• ウェトラニオ帝/皇帝立像
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 ウェトラニオ帝はAD350年の数ヶ月間のみ皇帝位を宣言した、ごく短期間のローマ皇帝でした。

 皇帝になる前のウェトラニオは、現在のドナウ河上流方面を統括した駐屯軍の司令官でした。現地で生まれ育ったウェトラニオは兵卒から出世し、戦術から装備に至るまで知り尽くした老将軍として、ローマ本国と現地駐屯軍の信頼を集めていました。善良で真摯な性格でしたが、文字を読むことが出来なかったとされています。

 AD350年にガリア地方で近衛隊長マグネンティウスが叛乱を起こすと、その勢力を抑えるために自らも帝位を宣言しました。これはウェトラニオ自身の権力欲というよりも、皇族や兵士たちの要請に応えたものでした。つまり、当時のローマ皇帝コンスタンティウス2世の事実上の「共同統治帝」のような形での帝位宣言でした。

 その後、コンスタンティウス2世と会見したウェトラニオは、皇帝への忠誠を誓うと共に自ら帝位を降り、配下の軍団はマグネンティウス打倒のための連合軍に組み入れられました。既に高齢だったウェトラニオは皇帝のはからいによって小アジアの海辺の屋敷を与えられ、年金を受け取りながら静かな余生を送ったと伝えられています。

 暗殺や叛乱によって命を落としたローマ皇帝が多いなか、非常に穏やかな最期を迎えることができた稀有な人物でした。この詳しい経緯は、辻邦生氏の代表作『背教者ユリアヌス』の作中で取り上げられています。


 

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