2世紀初頭、トラヤヌス帝の時代に発行されたセステルティウス貨。セステルティウス貨は大型の青銅貨であり、当時の一般市民が手にする機会も多いコインでした。立派なメダルのような大きさであり、その裏面デザインもバラエティに溢れています。その為、昔からローマコイン収集家に特に人気があります。
しかし青銅貨という材質上の問題と、当時の一般市民が頻繁に手にしていたという流通の問題から、状態の良い物は大変希少です。
裏面のトラヤヌス橋は、ローマ帝国軍がダキア(現在のルーマニア)へ侵攻する直前、トラヤヌス帝がドナウ川に架けた橋です。その長さは1.14km、幅は14mという巨大なものでした。AD104年頃に完成し、
当時では世界最大級の橋だったとされます。この橋はローマ軍の優れた技術力によって建設され、建設後およそ150年にわたって利用されたと云われています。
なお、現在ではこの橋は基礎部分しか残されていないため、その全容は後世の想像に頼らざるを得ません。しかしこのコインは建設当時の姿を伝えるものとして、歴史書やローマ史関連、建築史関連の書籍などで紹介されています。
トラヤヌス橋の建設風景 (想像図) コイン上では橋はアーチ状に表現されていますが、これはデフォルメされたものであり、実際にはいくつものアーチによって支えられた長い石橋でした。
橋の下にはボートが浮かび、さらに下部には
「S C」の銘があります。これは「元老院決議により」を示す略銘であり、当時の金貨・銀貨の発行権限は皇帝が、銅貨の発行権限は元老院が有していたことを表しています。