表面にはコリント式兜を被った
アテナ女神、裏面には
アルテミス女神が表現されています。
矢筒を背負った狩猟の女神アルテミスは、左に向かって弓を構えており、その足下には猟犬が勢いよく飛び出しています。非常に写実的で、躍動感のある表現です。シラクサは芸術性の高いコインが数多く知られていますが、その技術は戦争中でも変わりませんでした。
アルテミスの右端には発行都市シラクサ(シュラクサイ)の名を示す銘
「ΣΥΡΑΚΟΣΙΩΝ」が刻まれています。
この12リトラ銀貨は、カルタゴとローマが戦った
第二次ポエニ戦争中、ローマ軍によるシラクサ包囲戦の最中に発行されました。
2年に及んだローマ軍の包囲は、シラクサ軍の粘り強い篭城戦によって簡単には破られませんでした。このときシラクサ軍に新兵器を提供したのが、世界史上特に有名な科学者
アルキメデスだったと云われています。当時シラクサに居住していたアルキメデスは、老人ながら自らの知恵を提供することで祖国の戦いに貢献したのです。
熱光線によって敵の戦艦を燃やしたり、巨大なクレーンによって接近した船を転覆させたなどと伝えられるアルキメデスの新兵器は、その実態は不明ながらもローマ軍から恐れられ、その才能を高く評価されることになりました。
しかしBC212年にシラクサが陥落すると、侵入したローマ軍によって町は占領され、シチリアで最も繁栄したギリシャ植民都市シラクサは独立を失います。その際、市街に侵入したローマ兵によってアルキメデスは殺害されました。シラクサが最後に生み出した天才の辿った悲劇的な死は、敵軍ローマの将軍をも悲しませ、その後ローマ軍によって立派な墓標が建てられたといわれます。
アルキメデスの最期 ローマ軍が市街地に侵攻した際、アルキメデスは自宅の庭先で幾何学の計算に没頭していたと云われています。その様子を見ようと近づいてきたローマ兵に「私の図形を壊すな!」と怒鳴ったため、逆上したローマ兵に斬殺されたとされます。天才科学者らしい最期の言葉は特に有名ですが、この逸話は半ば伝説となり、実際にはどのような状況で最期を迎えたのかは不明です。
歴史的な名場面と同じ時期、同じ場所で造られた古代のコイン。その状態の良さからも、大変貴重な遺産です。