3世紀半ばの古代ローマ帝国で発行されたアントニニアヌス銀貨。このコインは、ローマ建国千年にあたるとされるAD248年に発行されたものであり、この歴史的節目を祝すために造られました。
当時の皇帝
フィリップス1世(フィリップス・アラブス)は自らの権威とローマの国威を発揚する為、ローマ建国千年祭を盛大に開催しました。首都ローマには帝国中から珍獣が集められ、連日パレードや剣闘士試合が華やかに執り行われたと伝えられています。また一連の祭典に合せて記念コインも発行され、アジアやアフリカの珍獣が表現されたものが残されています。
このコインの裏面には、ローマ建国神話に登場する有名な場面、
幼きロムルス、レムス兄弟に乳をやる雌狼が表現されています。
伝説では、アルバの王女が軍神マルスとの間に授かった双子が
ロムルスとレムスだったとされています。アルバ王はこの双子を抹殺するよう命じましたが、命じられた兵士はティベリス川に流しました。そして流れ着いた先で狼に見つかってしまいますが、この雌狼は自らの母乳を幼い双子の兄弟に与え、命を救ったのです。
ローマ建国者の出生の奇跡は古代ローマで広く知られ、彫像や壁画にも盛んに描かれたテーマでした。ローマの建国千年目の記念にふさわしいデザインとして、この年に発行されたコインにも採用されたのです。