紀元前1世紀、共和政時代の古代ローマで発行されたデナリウス銀貨。
表面には酩酊と快楽を司る神
バッカス、裏面には解放を象徴する神
リーベルの横顔像が打ち出されています。両神とも葡萄酒を象徴する葡萄の蔦を頭に巻いており、よく似た容姿で表現されています。両面に類似する神の横顔像が打ち出された、大変珍しい例です。
バッカス神像 (ナポリ国立博物館所蔵)
バッカスはもともとギリシャ神話のディオニソス神がラテン化したものであり、イタリア半島南部のギリシャ系植民都市からもたらされたと考えられています。
バッカスは葡萄酒(ワイン)と豊穣の神であり、快楽と熱狂を司る豊穣神とされました。その姿は中性的な美青年として表現され、女性たちを中心に信奉を集めました。また、禁忌や社会規範からの解放者を意味する「リベラトール」「リーベル」の名でも呼ばれ、その祭りでは老若男女問わず羽目を外すことが許されていたようです。
その集団性や熱狂性は退廃的とさえ見做され、ついにローマ元老院からバッカス信仰禁止令が出されたこともありますが、結果的に信奉者を減らすことはできませんでした。
リーベルは古代ローマの豊穣神であり、セレスやリベラと共にアウェンティヌス丘の神殿に祀られていました。治癒の神シャドラパや葡萄酒の神バッカスと関連付けられることもあり、葡萄の蔦を頭に巻いた姿で表現されています。
毎年3月17日は祝祭日「リベラリア」として祭りが開催され、人々は仮面を木に結び付けて歌を歌ったり、競技大会を行うなどし、犠牲獣をリーベル神に捧げて豊穣を祈りました。