紀元前5世紀のシチリア島で発行されたテトラドラクマ銀貨。ヒエロン1世時代の都市国家
シュラクサイ(シラクサ)で造られました。シチリア島の中でも比較的初期に造られた本格的な銀貨です。
表面にはシュラクサイを象徴する泉のニンフ、
アレトゥーサが表現されています。四頭のイルカに囲まれたアレトゥーサはパールの首飾りと髪飾りを付け、優雅な女性像として表現されています。周囲には発行都市シュラクサイを示す
「ΣVRΑΚΟΣΙΟΝ」銘が配されています。
アレトゥーサはシュラクサイで発行されるテトラドラクマ銀貨に共通して表現され、長い歴史の中で数多くの彫刻師たちが独自のアレトゥーサ像を産み出してきました。このアレトゥーサはその中でも初期に産み出されたものであり、ここからエウアイネトスやキモン、エウクレイダスなど名匠たちがより洗練されたものに発展させていったのです。
アレトゥーサはシュラクサイに現存する泉のニンフとされ、都市の象徴的な存在として認識されていました。
アルテミス女神の取り巻きのニンフだったアレトゥーサは、もともとギリシャ本土のエリス地方にいたという伝承があります。
ある時、エリスのアルペイオス川でアルテミスとニンフたちが水浴びをしていると、アレトゥーサの美しさに惚れこんだ河神が彼女を攫おうとしました。アレトゥーサは必死に逃げるも、河神はどこまでも追いかけてくるので、アルテミス女神はアレトゥーサを水に変えて地中に染み込ませ、遠く離れたシチリア島へ逃しました。シュラクサイとなる地へ辿りついたアレトゥーサは泉として再び地上に湧き出、後に都市シュラクサイの守護神となったと云われています。そのため、シュラクサイの泉は海の傍にあるにも関わらず、滾々と淡水が湧き出ているそうです。
このコインは極印の打ち出しや彫刻の立体が優れ、保存状態も良好です。裏面には古代オリンピックでの優勝場面が表現され、チャリオットの馬や御者の動きなど細部まで見事に確認できます。
また全体のトーン(経年変化色)から、長年大切に保管されていたことが分かります。2500年近い時代を超えて脈々と受け継がれる古代ギリシャの芸術品、収蔵されるのにオススメの一枚です。