ティトゥス帝(在位:AD79年~AD81年)の在位期間は非常に短いものでしたが、人徳の高さから良君として讃えられました。父帝ウェスパシアヌスと同じく軍人であり、即位以前はユダヤ戦争やイェルサレム攻略戦を指揮しました。
裏面デザイン「錨に絡みつくイルカ」はウェスパシアヌス帝のコインにも表現されていたものであり、父帝のコインを踏襲したものでした。このデザインは古代ギリシャ・ローマ時代の格言「Festina lente(ゆっくり急げ、急がばまわれの意)」を象徴化したものであり、初代皇帝アウグストゥスやウェスパシアヌス、ティトゥスも自らのモットーとしていました。
時を経た16世紀、ヴェネツィアの出版者アルドゥス・ピウス・マヌティウスは自らが所有していたウェスパシアヌスのデナリウス銀貨をもとにして、このデザインをプリンターズマーク(印刷出版業者の商標)として採用しました。このコインは当時の著名な人文学者ピエトロ・ベンボが、交友のあったマヌティウスに贈ったものだったとされています。このコインはマヌティウスにとって生涯の宝物だったようで、エラスムスなど他の重要な学者仲間にも見せて回っていたそうです。
アルドゥス・ピウス・マヌティウスのプリンターズマーク